ソロ・ギタリストたちの名演を、テーマごとに括りパッケージし続けている「Solo Guitar」シリーズ。第一弾作は、BUSKER.domon氏のプロデュースによるビートルズの名曲をカバーした『While Solo Guitar Beatly Weeps』。第二弾作として、南澤大介氏のプロデュースによるクリスマスソングをカバーした『Solo Guitar Christmas Time』をリリース。同シリーズの第三弾として制作したのが、10月11日 発売になる『Solo Guitar Traditional Tunes of Taiwan & Japan』。タイトルにも記されたように、本作は台湾と日本のトラディッショナルソング(伝統的な歌)をソロギター・スタイルでカバーした作品。参加したミュージシャンには、日本側のプレイヤーとしてBUSKER.domon/南澤大介/井草聖二が。台湾側のプレイヤーには、劉雲平/劉士華/董運昌が名を連ねている。
日本伝統音楽…むしろ、ここでは唱歌と言ったほうが通じやすいだろうか。『ふるさと』や『赤とんぼ』『この道』など、日本人が幼少の頃から親しんできた音楽が。同じく、台湾の人たちが慣れ親しんだ『望春風』『六月茉莉』『太湖船』が、1本のギターから紡ぎだされる情緒豊かな音楽として、それぞれに形作られている。
たった1本のギターが織り成しているとは思えない芳醇な香りが、どの楽曲からも匂い立っているのはもちろん。何よりも着目したいのが、1曲1曲が醸しだす「情緒」。それぞれの演者ごとに、爪弾き奏でるギターの音色や、構築した一人アンサンブルに特色が出ているのも聞きどころ。それ以上に、日本の歌も台湾の歌も、演奏に触れている間、時の流れが止まり、それぞれが醸しだす音の風景へ無心で耳や心が釘付けになってゆくところにある。例えるなら、水墨画に心引き寄せられ、絵筆の織りなした細部の滲み出た輪郭にまで視線を注いでゆく。あの感覚と同じ心惹きつける魅力を、6人それぞれに弾く弦の織りなした音の風景画に覚えていた。
多彩な楽器の色を駆使するのではない。アコギ1本という定められたシンプルな音色だからこそ、弾き手の表現次第で、それぞれの楽曲にいろんな音の濃淡が生まれ、弦の擦れあう音も含めた音の重なりにより、多様な淡い音の色を描き出してゆく。この作品を耳にしていただければわかるだろう、単一した音にも関わらず、そこからは一色のみで描かれたとは思えない彩り豊かな音の景観が広がっていることが…。
何よりも嬉しいのが、どの歌も、触れたとたんに郷愁抱く気持ちを導いてゆくこと。どれも郷愁を抱かせる歌という理由もあり、それぞれの演奏へ触れていると、不思議と望郷の念に駆られてゆく。ノスタルジーな香りを抱く原曲の持つ原風景を、6人のプレイヤーは、弦の弾き出す微細な音の響きという”ゆらぎ”を通し、より情緒豊かに染め上げてゆく。我々が幼少の頃から耳に馴染んだ歌が。今回、初めて触れる唱歌でさえも、一つ一つの音楽の風景を眺めている間、無心で旋律の絵筆を追いかけたくなれば、その音が織りなす音の景観が、何時しか頭の中へ音の墨絵として構築されていく。
あえて言葉にするなら、それは「楽曲の持つ情緒とプレイヤーの抱く郷愁が重なりあうことで生まれる、心を潤す浪漫」。過去へ残してきた懐かしさが心を満たしてゆくのも、6人の音楽のマエストロたちの腕を振るった曲の料理へ、心の舌鼓を打ったからに他ならない。
本作の特徴として、もう一つ上げるなら。それぞれのプレイヤーが伝統音楽のカバーと合わせ、自身のオリジナル曲も収録していること。BUSKER.domonや南澤大介、劉雲平のように、カバー曲/オリジナル曲ともに情緒感を出した楽曲を並べる人もいれば、井草聖二や劉士華、董運昌のよう、オリジナルでは比較的テンポやテンションを上げたスタイルを提示し、その違いをアピールする形まで、そこにもプレイヤーそれぞれの思惑や個性の打ち出し方が見えてくる。
その表現スタイルが何であれ、共通しているのが、1本のアコースティックギターは、人の感情の琴線を刺激する無限の魅力と可能性を秘めていること。
同じ食材でも、同じ絵筆や墨でも、使う人次第で藝術にも凡庸にもなる。今回の『Solo Guitar Traditional Tunes of Taiwan & Japan』はもちろん、先に発売した『While Solo Guitar Beatly Weeps』も『Solo Guitar Christmas Time』も、藝術家の腕とセンス次第で、同じテーマを用いても、こんなにも多様に豊かな感動を描きだすことを感じさせてくれる。
プレイヤーの方々なら、旋律一つ一つの動きへ耳が注視してゆくだろう。もちろん、心地好いBGM変わりに使っていただいても、まったく問題はない。就寝前に流せば、心がスーッと穏やかになり、何時しか深い眠りへ落ちてゆく。プレイーヤーとしては、つい聞き惚れて最後まで聞いてしまったと言われたほうが嬉しいのだろうが、そこは聞き手次第で自由に楽しんでいただきたい。
TEXT:長澤智典
★オフィシャルサイト★
Solo Guitar Records Web
http://sologuitar.jp/
★CD情報★
『Solo Guitar Traditional Tunes of Taiwan & Japan』
2017年10月11日(10/11/2017)ON SALE
Songs
1.故郷 (My Hometown) BUSKER.domon
2.鶴の恩返し (Crane Girl) BUSKER.domon
3.望春風 (Expecting for the Breeze of Love) Yun-Ping Liu
4.鄕間小路 Country Road) Yun-Ping Liu
5.この道 (This Road) Daisuke Minamizawa
6.月 (The Moon) Daisuke Minamizawa
7.六月茉莉 (Jasmine In June) Shih-hua Liu
8.海浪 (Ocean Waves) Shih-hua Liu
9.赤とんぼ (Red Dragonflies) Seiji Igusa
10.Back to basics Seiji Igusa
11.太湖船 (Tai Lake Boat) Yun-Chang Dong
12.In the Clouds Yun-Chang Dong