Moranの解散から8ヶ月強、バンドの中核を担っていたドラマーのSoanがついに動き出した。先にネット上を駆け巡ったニュースでもご存じのように、彼はバンドではなく、ソロ・プロジェクトとしてその姿を表に現した。しかも、2つのムーブメントを掲げながら…。それが、ex.amber grisの手鞠をヴォーカリストに起用、ピアノを中心にヴァイオリンとアコースティックギターによる生音を主軸に据えた構成による【Soanプロジェクトwith手鞠】。Chantyの芥を歌い手に起用した、Soan流のヴィジュアル系スタイルをバンド編成で届ける【Soanプロジェクトwith芥】だった。
Soanの誕生日当日になる6月1日(水)、彼のホームグラウンドでもある高田馬場AREAを舞台に「オトノタカラバコ~Soan Birthday Special Live~」と題したSoanのソロ・プロジェクト始動ライブが行われた。当日は、【Soanプロジェクトwith手鞠】と【Soanプロジェクトwith芥】による二部構成で実施。Soanの描いた音像を具現化すべく、当日はShun(ex.DuelJewel)/タイゾ(Kra)/Ivy(ex.Moran)/Sachi(黒色すみれ)がゲストミュージシャンとして参加。チケットはSold Outを記録。満員の観客たちの前で繰り広げられた夢幻な歌の物語を、以下にお届けしよう。
先に登場したのが、Soan(Piano&Dr)/手鞠(Vo)/タイゾ(AG)/Sachi(Vi)という編成を組んだ【Soanプロジェクトwith手鞠】。「幾つもの物語が終わりを告げ、それは夢か幻であったかのように、眩い光の果てに、深い闇の底に消えた…ただいま」。Soanの奏でる切々としたピアノの旋律の上で、手鞠がゆっくりと言葉を語り紡いでゆく。物語へ寄り添うように響き出したアコギとヴォイオリンの調べ。たおやかな音色が場内へ波紋のように広がってゆく。やがて旋律は『夕闇に鳴動する衝動と幸福の在処』へ。詰め込んだ想いの欠片一つ一つを、旋律の波紋を通して広げるように手鞠が歌いかけてゆく。今にも壊れそうな、とても脆く。でも、美しい静謐さを湛えた楽曲だ。物語の始まりは、そんな優しく寄り添う歌が相応しいのかも知れない。
蒼く広がった世界。「現実に迎合すれば真実からは遠のく…口当たりのいいものだけをその醜い下腹に取り込んでいるんだね」。黒い響きを放つ言葉。でも、呪詛のような言葉に優しさを覚えてゆくのは、歌声のせい?!。『それは呪いと同義語の魂の鎖 永遠に続く祝福と云う名のカルマ』が連れ出したのは、暗い悠久な世界。そこは天国?!、それとも地獄なのか?!。サビでは切ない慟哭にも似た感情も描きながら、みずからの魂へ問いかけるように手鞠は歌いかけてゆく。その演奏は、異国の夜の闇の静寂を漂う感覚にも似ていた。自分自身の心の答えを探し出す見えない旅を続けるかのように…。
「優しい記憶とは、時に、その胸を冒す毒へと変わる。肉を腐らせ、肺を蝕み、やがて呼吸することすらままならなくなる。そこから逃れる術を、君も、僕も、まだ知らない…」。彷徨い続ける魂を優しく包むように。いや,その演奏は、答えを知らない想いに捧げる鎮魂歌なのかも知れない。手鞠の揺れる歌声に生きた表情を寄り添わせるように、哀切な調べが、嘆いた旋律を次々と放ってゆく。『投影された在りし日の肖像と云う名の亡霊』、なんて心をチクチクと嬉しく蝕んでゆく歌なんだ。舞台上では、まるでジプジー楽団のような4人が、人の心の刹那を暴き、曝しながら、嘆きの物語を綴れ織っていた。
その空間に言葉はいらない。必要なのは、感じる心…。「闇は徐々に深まり、夜はすそ野を広げてゆく。かがり火は少しずつ、確かな強さを増してゆく」。闇に蠢く世界からの脱却?!。野生の感情を身につけた手鞠が、タイゾの情熱的なアコギとSachiのたおやかなヴァイオリンの旋律に導かれ、狂気をまといだした。
とてもメランコリックな、そして何よりも情熱的なスパニッシュな演奏の上で、感情を痛く露呈した手鞠が『感情を媒介として具象化する感傷の逝く宛』を朗々と歌いだした。Soanのドラムのリズムの上で跳ねるように歌うその姿は、白い斑模様描いた黒い翼を羽ばたかせた悪魔のよう。静かなる、でもメラメラとした燃える情熱を放つ演奏だ。心が踊る、優雅に、でも狂おしく…。
そして物語は、闇から光へと道を照らしだした。「君のトランクにそっと忍ばせた希望という光。君の願いが叶うとき、僕の願いがきっと叶うのだろう。この音を持っていくといい。君が帰る場所に迷ったら、ここが帰る場所であることを、僕たちは願っています」。光を携え、穏やかな白い浪漫を旋律に這わせながら、彼らは『そして君は希望の光の中に消えた』を紡ぎだした。そこにあるのは、優しく光る陽の光。でも、闇と光の狭間の中で揺れ動く感情のままに、彼らは希望を投げかけてゆく。その希望を、僕らは素直に手に取り飲み込んでも良いのだろうか??。闇から光へと導かれた物語。だけど、その光は黒い影をくっきりと心に映し出していた。なんてSoanらしい、闇んだ希望なんだろう。
【Soanプロジェクトwith手鞠】が描き出したのは、闇と光の物語。Soanの中に潜む希望を求めた悲しみや慟哭を描いた、迷いの物語。その揺れる感情は、次の物語で熱く躍動してゆく…。
インターバルを開け、舞台上へ姿を表したのが、Soan(Dr)/芥(Vo)/Shun(G/Vo)/Ivy(B)による【Soanプロジェクトwith芥】だった。黒い交狂曲響き渡る空間が、そこには渦巻いていた。白い衣装を身にまとったメンバーたち。光にしては痛すぎる。【Soanプロジェクトwith芥】が導き出したのは…。
「さぁ、逝こうか」、芥の言葉に導かれたのは激しく、重く、何よりもどす黒く鈍い光を放った豪圧な音の塊だった。大きく揺れ動く演奏。重いうねりの上で、美しく、次第に雄々しい歌声をはべらせてゆく芥。『不確かな箱庭』が連れ出したのは、闇のカーニバル?!。もっともっと狂気を身にまとえとけしかけてゆく演奏。もっと堕ちて逝け、もっと理性を捨て、闇の箱庭の中で狂って逝けとばかりに…。
満員の観客たちを煽る芥。ザクザクとしたShunのギターのリフが、滾る感情を身体の奥底から引きずり出した。重く、でも疾走してゆく躍動的な演奏が観客たちに狂喜を与えてゆく。『隔つ虚構紡ぐ真実と憧憬』を通した雄々しい感情の咆哮、絶叫の交わし愛(あい)。演奏は熱かろうと、歌詞に綴られた主人公の心は闇を彷徨い続けている。でも、それがSoanの痛い心の素顔なのだろう。
「吐き出せー!!」、野生の感情剥き出しに煽るSoan。徹底してけしかけてゆく、狂気を身にまとったSoan。その激烈な感情を煽るように流れたのが…。
「その涙を失うのが怖かった。その微笑みを失うのが怖かった…。だから、不条理な朝が来る前に、その首筋をずっとずっと…」。芥の言葉に導かれたのが、闇の交響曲。雄々しく、荒ぶる感情と共に躍動してゆく演奏。轟くSoanのドラムが、触れた人たちの心を激しく踊らせてゆく。激動な物語を描きながら、壮大な黒い叙情詩を『透過幕』が作り出していた。
「俺たち全員でこの箱庭をぶち破っていこうぜ!!」。軽やかに弾み出した演奏に身を預け、大勢の観客たちが跳ねだした。挑発的な姿勢を持って、昂揚した感情を剥き出しの牙に変え、舞台上のメンバーたちが、観客たちが、『arrive』に身を任せ騒ぎだした。「飛べ、飛べ」と何度も煽る芥。狂ったカルナバルの炎は、クライマックスへ向けた熱い宴を描き出してゆく。高まる絶叫と火照った空気を背負いながら。そして…。
「踊ろうかー!!」、昂る演奏に合わせ観客たちが左右に走り出した。疾走するビートの上で、雄々しく、挑発しながら歌う芥。Shunが、Ivyが、轟く黒い衝動を叩きつけ、観客たちを煽ってゆく。『hysteria show time』が場内を彩ったのは、狂喜と昂揚のカルナバル。誰もが感情を剥き出しに暴れていた。それが、ここで自分らしくいれる姿と証明するように。
【Soanプロジェクトwith芥】が場内を染め上げた熱狂のドラマ。Soanの中に巣くう野生を、野獣の様を具現化したライブには、まさに狂気と狂喜が満ち満ちていた。
やまぬ熱狂の声。舞台上に姿を表したのが、Sachiを除くこの日出演したメンバーたち。最後に叩きつけたのが、Moranの『L’oiseau blue』。嬉しい意外性を持った楽曲か飛び出した。しかもヴォーカリトにはHotomiを迎えての登場だ。その演奏に、会場中の人たちが熱狂と歓喜のエールを贈っていた。ありし日の姿を記憶の彼方から引きずり出しながら、誰もが、在りし日の幻影に嬉しく酔いしれていた。最後の最後に、こんな素敵なプレゼントを届けてくれるとは、みずからの誕生日に、何よりもファンたちが喜ぶサプライズなアンコールだった。
ライブ後には、トークイベントを実施。こちらではSoanをホストに、Ivyを司会にスタート。舞台へ登壇したのがこの日の出演者全員。プロジェクトを行なうきっかけについて、「このシーンを盛り上げていきたい人たちと一緒にやりたかった。しかも、最初にオファーしたみんなが素直に応じてくれたのが嬉しかったこと。歌詞も、気持ちいいくらい後ろを向いてるんだけど、それも何時かは公開したい」とSoanが発言。【Soanプロジェクトwith手鞠】話では、「緊張感や静かな面を狙いたいのが、このプロジェクト」と説明。【Soanプロジェクトwith芥】の話では、「本気の大人の遊びをしよう」と、このメンバーが出揃ったことをトーク。みずから前に出てプロジェクトを行なっているのも「自分が責任を持って本気でぶつかりあうため」。Hitomoを迎えての話では、「お互いの企画に出演したこと」を話していた。他にもいろいろ語っていたが、司会のIvyの振りが雑すぎて書けない話ばかりだったと、最後にお伝えしておこう。
今後、二つのプロジェクトがどんな動きを示してゆくのか、ぜひ注目していただきたい。
■Soanコメント
自分の中にある静と動2つの表情を描き出せました。もともと二つの心模様は自分の中へ巣くっているもの。静かな耽美さと激しい狂気を上手く出せたステージになりました。これからは【Soanプロジェクトwith手鞠】【Soanプロジェクトwith芥】二つの表情をよりしっかりと差別化し、煮詰めながら…。手鞠と芥という、歌心のあるエモーショナルな歌い手に俺も魅せられて一緒に活動をしているように、一歩ずつ大切に、しっかりと魅せることを心がけつつ、音楽を届けていこうと思っています。
■手鞠コメント
自分の今までやってきた音楽性にも繋がるように得意分野というか、むしろ、見てる側に沈黙があるくらい圧倒的なものがあったほうがいいなというのが自分のテーマとしてあったこと。盛り上げるのとはまた逆なスタイルを示せたように、いい空間が作れたなと思っています。
芥コメント
すごい緊張はしたんですが、Soanさんの世界を肌で感じながら、表現の心地好さを知れた気がしています。何時もやっているバンドと違う表現がたくさんあったんですけど。すべてに自分の音楽人生に活かせる経験が出来たなと思っています。
PHOTO:遠藤真樹
TEXT:長澤智典
★公式情報★
Soan BLOG
http://ameblo.jp/moran-soan/
Soan twitter
https://twitter.com/soan_official
★LIVE情報★
【Soanプロジェクトwith芥】
日付:2016.7.5(tue)
会場:新横浜NEW SIDE BEACH!!
公演名:激情版「聖☆Ivyさん」~Ivyさん誕生の秘密だニャン!~
【Soanプロジェクトwith手鞠】
日付:2016.8.31(wed)
会場:Takadanobaba AREA
公演名:お疲れサマー2016
★LIVE DATA★
公演名:オトノタカラバコ~Soan Birthday Special Live~
会場:高田馬場AREA
出演者:Soan
Special Musician:手鞠(ex.amber gris) / 芥(Chanty) / Shun(ex.DuelJewel) / タイゾ(Kra) / Ivy(ex.Moran) / Sachi(黒色すみれ)
―セットリスト―
【Soanプロジェクトwith手鞠】
『夕闇に鳴動する衝動と幸福の在処』
『それは呪いと同義語の魂の鎖 永遠に続く祝福と云う名のカルマ』
『投影された在りし日の肖像と云う名の亡霊』
『感情を媒介として具象化する感傷の逝く宛』
『そして君は希望の光の中に消えた』
Piano & Drums:Soan
Vocal:手鞠
Acoustic Guitar:タイゾ(from Kra)
Violin:Sachi(from黒色すみれ)
【Soanプロジェクトwith芥】
『不確かな箱庭』
『隔つ虚構紡ぐ真実と憧憬』
『透過幕』
『arrive』
『hysteria show time』
Drums:Soan
Vocal:芥(from Chanty)
Guitar,Voice:Shun
Bass:Ivy
―アンコール―
『L’oiseau blue』(Moranカバー)